能登半島地震による輪島土蔵修復報告その2 大工素也邸土蔵修復工事報告(竹小舞)
滋賀県の左官 小林隆男
大工邸土蔵は、2間半×3間半の大きさで震災前は2階を漆の仕上げ場として、下は漆器等の保管する場として使用されていた。この土蔵は、完全に建物に囲まれた部屋内にあり、外から全景を見渡すことができない。
震災による被害状況は、他の一部の土蔵と同じように、ここも構造体や屋根のずれなどはほとんど無く、壁の崩壊(竹小舞下地からの完全な剥離)が被害の主要因である。(原因については前回の久住親方の報告参照)
ここの御宅では母屋も被害にあっているために直接生活に支障をきたしている。また、速やかに仕事場の確保をする必要がある。その理由から修復方法については、作業を進める過程においても、土蔵を本来のやり方で時間をかけて施工することが困難で、一般住宅と同じ真壁工法を取ることになった。
今回は、その最初である竹小舞下地の施工について報告する。久住親方の考え方に習い、本来小舞下地は土を塗りつけもたすという見方を工夫改善して、今回は竹小舞下地そのものを構造体として成り立つように頑強な小舞下地を構成することになった。
まず修復方法の方向が決まり、小舞竹の確保である。が、残念ながら輪島近辺では左官用の小舞下地に適した竹を取り扱っている所が探せず、やむなく滋賀県((有)竹松/滋賀県蒲生郡安土町)の竹を使用することにした。間渡し竹は、炭化させた巾約5cmを使用。編みつけ竹(割り竹)は、巾約3cmを使用。いずれも、巾があるために自ずと肉厚も厚くなる。また、炭化した竹は粘りが出て少々のことでは折れない。頑強な下地を作るために、(予算を度外視するなら)全てを炭化した竹を使えばより強度の上がる下地ができると思われる。
荒縄は、3分、2分5厘を使用。縄は、北陸地方が本場であるので、現地にて準備してもらうことにした。
今回、炭化竹を採用した理由は輪島の土蔵において共通して見られる問題点とも関わる。以下、久住親方の指摘を記す。
「調査した輪島の土蔵の立地上の特徴は、地下水位が高く床下の湿度が高い。また吸水性の高い基礎石により土壁が水を吸い上げ、貫と小舞荒縄を同時に腐食させている。さらに貫間に横間渡し竹が施工されていないため、全ての荷重を貫が支えていた。貫材をよく観察すると、年輪が浅く目の粗い杢目材を使用していた。このため、土台や柱より貫の腐食が早く進行したものと思われる。今後、改修や新築においては目の細やかな柾目を使用するべきである。少なくとも腐蝕に強い間渡し竹を用いて施工されていれば、剥離落下を防ぐ可能性が高まる。この理由を特に重視し、値段は張るが虫がつかず水分に強い炭化竹を採用することにした。これは大崎邸の土蔵と同じである。」
*小舞竹の炭化について 説明:(有)竹松
小舞竹を高圧高温(140℃以上)の水蒸気で熱処理することを炭化と表記する。竹の防虫効果があり薬剤処理が要らない。また竹が強靭になる効果があるほか経年劣化が少ない。飴色(茶褐色)をしている。
以下、大工邸での竹の配置、及び編み方は図で示す。(図面は、小林吉則建築計画室)
※図をクリックすると大きく表示されます。