南氏かまど報告

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丹波篠山かまど作りの報告 「かまど」つくったどぉ~!!   

丹波篠山左官職人 南 俊行


はじめに

兵庫県篠山市において、築150年の古民家のリフォームを行い、明治・大正期によく作られた工法によって赤漆喰磨きのかまどが完成しました。この工事では施主や建築家、才本謙二さんの要望で創建当時に近いと思われる仕上げで施工することになりました。

外壁は「灰中」仕上げ(土1:石灰2+砂(篩:7厘目通し)+細目中塗苆)といって、ほんのり土色の砂漆喰(海苔無し)。軒天井、垂木も灰中によりぬたぐり(総塗ごめ)。(「灰中」については久住氏の「伊勢のかまどの赤磨きについて」を参照)内装は赤土、黄土ののり土仕上げ及び同土による中塗り土仕舞い。そして土間タタキ。極め付けは地の土によるかまど作り。コストを考えなければ楽しい仕事です。去年よりはじめた若い左官職人を対象とした現場での勉強会も数多く行う中、内装ののり土は私の息子の好尚が塗りました。土間のタタキには約40㎡の施工に15名が参加しました。

かまど作りとその仕上げを久住章さんに相談したところ、かまどは昭和以前の工法で他の土を積み軽くたたきながら仮枠無しで型を作る方法を、そして仕上げは伊勢の赤福のかまどの磨き仕上げを手掛けている西川和也さんに指導を受けてはどうかということになり、西川さんに打診したところ「中塗の段階から行きます」との返事をいただきました。

仕上げ当日、赤磨き仕上げに大勢の参加者があり、関心の高さを感じました。赤漆喰磨きは西川さん、そして伊勢赤福で西川さんと一緒に仕事をしている松木憲司さん、植田俊彦さんの3名に指導していただきました。

今回は西川さんが使用されている材料を持参してもらい、鏝も曲面の磨きに使いやすいように工夫された磨き鏝を植田さんが用意して来てくれました。曲面部分において講師の手際のよさに参加者も大いに勉強になり、大変きれいに仕上がりました。

古い建物全体が古色蒼然とした中で、壁は赤土、黄土、そして土間はタタキ仕上げ、そしてその中心に赤い漆喰磨きのかまどが存在することで古民家が新しく生まれ変わったような雰囲気になり、私にとって忘れられない感動的な現場となりました。

その他この現場では丸型の炉や五衛門風呂、土蔵の修理など多くが残っていますので機会があれば見に来て下さい。



作業工程
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1 外周の外面と天端にでこぼこのない栗石を選び土台とする。サイズに合わせセメントモルタルで固定する


2 赤土3:砂1に少量の水を入れ(土間タタキより多めで、ちょっと強く手でにぎると固まる程度)、1寸5分角長さ30cmでタタキながら積み上げる

3 火袋底の高さにオイル缶を置き、焚き口になる空間は4寸角、長さ30cmの角材を4本積み上げその廻りも土で固める

4 炉道の高さに補助桟60×25×250㎜を両側に入れ、その上にパイプをのせる

5 高さ65cmまで土を積み上げ、手グワやトンカチ、鏝で整形する





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1. だいたいの形ができれば中央のオイル缶を抜き、天端に釜座を乗せて墨出しをした後、縦壁部の余分な土をクワやトンカチでけずり落して整形、肩部はバカ板を当ててけずり取る
2. 外形整形の後、焚き口の角材を抜き鏝にてけずり取る
3. 釜座の内部際を整形、エン道の木材をぬき取る
4. 火袋の内部を鏝でけずりながら整形する
5. 釜底の廻りにも火が廻るようにけずる

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6. 火袋の内部の形状はだいたい右記のようになるが、今回のかまどの使用法が焚き口にフタを使用せず煙穴を立てる方法なので、煙量と配煙量のバランスを考え、また、焚き口天と釜座天の寸法が短すぎると外部壁にヒビが入りやすくなるので実際の火袋の深さは450㎜になっている。火袋の内部は耐火度の高い白土を塗る

コツ:白土は砂を少なく薄塗りし、乾燥させながら3回ほど塗る。




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1. 荒下地ができるとだるま型の継手の前後と焚き口の際(後に黒モルタルで隠れる)に竹串を打ち込んでおく
2. そして釜を掛け3回ほど火を入れ、かまど全体を乾燥させる
3. 焚き口と灰落としの部分は黒モルタルを厚塗りし、金鏝押えをする(この部分は職人の好みでデザインする。今回は顔料にバイエルン黒を使った)
4. 下地が乾燥後、表面に水を打ち中塗土を2回ほどこすり付ける。すでに打ち込んである竹釘に3分縄をタル巻きにする(2寸間隔)。下塗りが保水している間に長めの苆が多めに入った中塗土を塗る
*普通かまどにタル巻きを施工することはないが、今回は工期が短く下地が充分に乾燥していない。そのような表面に中塗土をした場合、下地と中塗の収縮率が違う為最悪の場合、はく離を起こし中塗土が崩れる恐れがあり、それを防ぐためにタル巻きを行った。また、焚き口上部のヒビ割れ防止にもなる。
5. 上記は正式な中塗ではなく、これが乾燥後改めて中塗を行う。仕上げが漆喰磨きなのでていねいに塗る
6. 中塗終了後、乾燥のため火を入れる。この折煙道のサイズが適正かよく見る。焚き口にフタがないので煙道の口が大きすぎると熱効率が悪く、小さすぎると煙が焚き口から前に出てくる。つまり焚き口の大きさ、火袋の容量、煙道への空気の量と速度の関係にある
7. 最初に火の付きやすい紙や木の葉、薄い木切れを下に敷き、その上に割り箸のような細い木片をのせ、その上に少し肉厚の木をのせ火をつける。
  はじめに煙が大量に出る。この煙の処理ができなければ酸欠になり火は燃えないので、はじめは出来るだけ小さな火で煙を増さないように徐々に大きくしていく
・ ススがすぐにつまらない程度の小さな口径の煙道
・ 容量の小さい火袋
・ 小さな焚き口(薪を入れる最低限の口径)
上記の関係を知るには、私の経験は少なすぎる
8. かまどは各地によって形状が違う。それは時代性や住宅事情による住まい方や目的の違い、地域によって取れる木の種類や特に都市部では当時売られていた薪のサイズや入手事情に合わせて形が決定されたかもしれない
9. 明治・大正期における民家のかまどは平均してサイズは小さい。
  焚き口が地面の位置にあり、だいたいの高さが50cm未満であった。しかも土の仕上げである。裕福な家から徐々に機能を変え、化粧をほどこして立派になっていったと思われ、セメントやタイルの無い時代に漆喰磨きや大津磨きへ、そしてより見映えのする赤や黒が流行したと思われる

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かまど製作 写真
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