西川氏かまど報告

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伊勢磨きの施工法

伊勢左官 西川和也


1.材料説明
中塗土は、地方によって粘さや、さくさ(あまさ)などの強度の問題もあるが、なるべく“さくい”が強度のある土を選ぶ方が良い。

真砂土
真砂土は、花崗岩の風化した物を探すと良い。真砂土自体の粘さやさくさも地方によって違いがあるが、なるべくさくい目の真砂土を選ぶと良い。真砂土は良品の目安として、指で押して砕ける程の風化した物を選ぶと良い。

石灰
石灰は、地方の石灰でも良いが、少しさくい目より粘い目の石灰の方が良い。


2.材料作り
中塗土「かっちゃく」を少し粘い目にして、少しスサがちで、川砂の篩(ふるい)8厘目通しを粘さ調整に入れると良い。(その時には、真砂土は入れない)
*かっちゃく→方言で下地にくっつきがよい中塗土

砂漆喰
砂漆喰は、石灰の粘さによるが普通の壁に使う海藻混入型砂漆喰よりもサラッとした感覚の材料を練るほうが良い。その材料とは、石灰に真砂土を入れて、真砂土の8厘で粘さ調整をし、その中にひだしスサ、もしくは揉みスサを入れ繋ぎに短いマニラスサを入れると良い。

並漆喰
並漆喰は砂漆喰と同様で、サラッとするように3厘でふるわれた真砂土を入れて富士スサを入れ、その中に少量の紅柄(ベンガラ)を入れて下地で色を付けておくとムラのない色に仕上げやすい。

ノロ
ノロは100メッシュの篩で石灰・紅柄を振るい、それに80メッシュの真砂土を入れる。その時、真砂土が指でこすって潰れるか確認をしておく。


3.材料の配合
●1回目    
・砂漆喰 1回塗    
石灰・・・10
真砂土(8厘)・・・10    
マニラ苆(もしくはひだし苆)・・・適量

●2回目
・砂漆喰 2回塗    
石灰・・・10
真砂土(3厘)・・・3
ベンガラ・・・少量
白雪・・・適量

・赤ノロ(容積比) 2回塗   
石灰・・・6
ベンガラ・・・3   
真砂土80メッシュ・・・1


伊勢磨きは、のりを使わず漆喰磨きを行う。普段の漆喰磨きだとのりを入れるのが普通のようだが、伊勢磨きの場合は水もちを良くし火に強い特徴のある真砂土を使う。

何故、真砂土が、水もちが良いかと言うと約200年前の古民家の改修のおりに伊勢の黒木土というものがあり、その土は水に溶けにくく火にも強い土だが、水もちが凄く悪い。私もその黒木土を何度か触っているうちに他の200年前の壁土を思い出し真砂土が入っていることに気づき、実際に真砂土に入れたら水もちが良くなった。

何故、真砂土を入れると水もちが良くなるのか昔の職人さんに尋ねたところ、真砂土には細かい石の目があり水分を溜める特徴があるのではないかと聞いた。実際のところ、作業していると、伏せ込み作業時に水分量が失われていくのが早いが、鏝圧をかけて伏せていくと水分が上がりやすくなると思う。そうすると、漆喰磨きに必要な最低限の水分は真砂土の目に含まれ、鏝圧で水分が調節出来る。


4.施工方法
中塗下地、最低でも15mm以上の厚みを数回に分け下地を作っておく。その時の粘さは土がちにしておくと良い。最後の表層だけ、苆(スサ)と土との割合を1対1程度にしておくと良い。

中塗りは、なるべく摺り込むように砂が転げない程度に塗り綺麗にムラを取っておく。その時のこなしはすばやく、回数を少なくし、水もちと弾力性を保持するため2~3回で止める方が良い。

砂漆喰は、中塗りのしまり具合を見計らって5~7mm程度を2回塗りで行う。その時に形が球体なので斜め方向や横方向や縦方向の鏝を使う。その時のポイントとして球体に鏝の設置面を多くする鏝の使い方をすると良い。

こなしは、あわてず綺麗に時間をかけてムラを取っていく。その時に1ヶ所ばかりにかかわらず丁寧に回数を減らしてムラを取っていくと良い。
(水引きのポイントとしてあまりエッジを立てず、鏝の腹で撫でていくと水が上がりやすいので、あまり力を入れずにこなしていくと良い)
鏝ムラが中々消えない場合は、少し休ませると良い。砂漆喰のこなしの終了の目安は、手の平で触って手に表面の漆喰がつかない程度。

並漆喰は2度塗りで1~1.5mm程度に塗る。その時も砂漆喰同様に鏝圧をあまり掛けず水もちを保ちながらこなしていくと良い。その時にスサの伏せ込みを注意して斜め方向や横方向や縦方向と球体に鏝の設置面を大きくした鏝の使い方をする。また、材料のしまり具合を見計らって磨きを上げていくといい。最終的には球体なので波消し鏝で整えるようにした方が良い。
(並漆喰の鏝を止めるポイントとして、波消し鏝で撫でて並漆喰の仕上げ程度で止め、少し休ませる)

ノロ塗りは、まず始めに下地に均一に摺り込む。その時下地の色が見えないようにしておく。2度目の上塗りは地金鏝で塗り、スポンジで手早く均一に延ばす。
延ばした後5分程休ませ地金鏝を2~3回程度で止め半焼き鏝に替えて、ムラを取る。その時、鏝のエッジを立てないようにこなし4~5回程度で押え、1度休ませ、再度鏝を入れてから波消し鏝に替える。後は艶が出るまで鏝を入れて光りかけたら注意しながら鏝のエッジを立て艶を上げていくようにする。


色を合わせるポイント
ささくれる前に色ムラが生じてくるので、スポンジで表面を撫でて色を揃えて上げ、再度鏝を入れ3~4回程度繰り返す。


鏝を止めるポイント
色ムラが出かけたら鏝を止めスポンジで表面を整え少し休ませ、との粉(配合比=ベンガラ1:伊勢岩粉1)を打ちスポンジで薄く延ばし、鏝が掛かるようであれば鏝を通して色を揃えておくと良い。後は少し待ち、再度との粉を打ちビロード及び手ゴスリで仕上げていく。

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