関氏連載4

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伊豆長八からの手紙(第4回)  蔵造りが実現か

伊豆長八作品保存会 関 賢助


ようやく春の兆しも見えてまいりましたが、今年は最近ではあまりなかった、冷たい日、雪の降る日が多かったのではないでしょうか。私どもの伊豆は、いつもの強い季節風に襲われた日は数えるほどですが、曇った弱い日差しの日が多く、とは言いましても、霜が降りるでもなく、氷が張るわけでもありませんが、風が冷たく、何もするにも動きは鈍くなっております。

突然ですが、このたび、小さくとも良いではないか、土蔵を建てようか、という計画が起こりました。「左官教室」の紙上でご存じとは思いますが、4年ほど前に土蔵海鼠壁(なまこかべ)の保護と保存を目的として、集まった有志によって、「松崎蔵造りたい」が結成されました。そのメンバーによる計画です。

伊豆の松崎町には、明治・大正年間に造られた土蔵海鼠壁の建造物があり、最盛期には250棟はあったのでは、と言われておりました。年々老朽化による崩壊や、現代の生活に適合しないと、解体が進みましたが、今でも200棟余あります。残っている土蔵の調査や保存活動をしておりますが、その中で、明治42年に建てられ、現在は松崎町に寄贈された商家が伊豆地震などで被災し、海鼠壁は剥落してしまいました。修理はされていたのですが、応急処置的な方法でしたので、再度剥落し、その修復工事に町当局では柱にコンパネを張り、その上に瓦をクギ打ちし、海鼠壁を復元するという工法で進める予定でした。

以前から私を含めた「蔵造りたい」のメンバーは、解体することになった土蔵を訪ね、現場において構造や現状の視察研修を行っておりました。今回の修復は従来の竹木舞を編み、土を塗り、瓦を張りつけての工法で復元できないか、との発案から町当局にお願いしました。その後、平成18年の9月から昨年の3月までの半年間、インターネットなどの情報により、静岡県内はもとより、東京都、神奈川県などからの協力者もあり、土壁から海鼠壁までの修復、復元工事を完成させることができました。


043長八関(p1)080315.jpg土蔵の外観

しかし、私たちの夢は、小さくとも良いではないか、土蔵海鼠壁を造ってみたい、ということでした。こうした中、来年の秋には静岡県内の各地で「国民文化祭」が開催されます。松崎町は「巧の町」をテーマとして参加することになりましたが、内容は長八ゆかりの町ということで、左官に関することとして既に行われている「全国鏝絵コンクール」や、「光るドロ団子」などが企画されています。その他にも有識者による講演なども予定されるそうです。「その中に蔵造り体験コーナーをテーマに設け、海鼠壁や壁塗りを見学者とともに現場で語り合い、自分の手でやってみませんか」、そんな企画を持ち込みましたところ、良い感触を得ることができました。

さらに、町は「海鼠壁伝承事業」として、海鼠壁の修復や、町の美観と技能の伝承としてブロック塀を海鼠壁に改修する工事の予算処置をしております。それを流用して、蔵造りを2年間かけて実現できないか、と話を進めております。

こうして、小さくとも良い、「蔵を造りたい」の夢に向かっているわけですが、メンバーのうち左官職人は2人だけ。あとは民宿経営者、各職場の定年退職者、町の公務員、大工、造船業者、電気工など、多士済々と言いたいところですが、素人の集団と言ってもよいでしょう。それと、これはどこでも同じようなところが多いのではと思いますが、松崎町には土蔵造りに基礎から係わった人は、設計者はもちろんのこと、大工、左官の職人は誰もおりません。

木舞壁、土塗りの経験者も数名です。いつも見慣れているのは土蔵の外回りだけですから、中の構造がどうなっているのか、木工事の小屋の骨組みは、となって、行き詰まってしまいました。ところが幸いなことに、柱と土台の取り付けはそのままですが、2階の抜き板や化粧造作が剥落したものの、内部の構造がむき出しとなっている蔵があり、土蔵独特の丸桁を見ることができました。貴重な現物参考資料です。左官工事についてのは唯一の資料は、東京都の平西隆寿氏からいただいた、群馬の出牛正雄氏の「土蔵の施工法」です。これを頼りとするわけですが、今まで松崎町の土蔵の修理や解体現場を見た中で、群馬県ほど土塗りに手間をかけている現場はありません。


043長八関(p2)080315.jpg妻側の柱や桁、抜き板の構造
043長八関(p3)080315.jpg丸桁、登り梁などの土蔵特有の小屋組み

こんなわけですが、建物の坪数は建築基準法の確認申請を必要としない10平米以下とした、6畳一間くらいの広さの土蔵を計画中です。建築場所は未定ですが、できることなら「伊豆の長八美術館」周辺に建て、人力車の待機所、ふる里ガイドの案内所、観光バス乗務員の休憩所などとして使用することができるのでは、海鼠壁の里として、伊豆の松崎町の小さな目印になるのでは、と思いを巡らせております。

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