フランス、ドーフィネ地方の土の家
建築家 磯村雅子
ヨーロッパ各地には、石造だけではなく、数多くの木造や土の建造物があります。またこの地域は古代から、ギリシャ文明やカルタゴ、ローマ帝国による支配、イスラムの影響など、様々な歴史が複雑に絡み合い、建築文化に多大な影響を与えています。主に庶民の住居であった土の建物も、少なからずこれらの影響を受け、今日に至っています。
フランス各地にも、その地域の風土や歴史、伝統を受け継いだ、様々な土の技法の建物があります。主な技法は、版築や日干しレンガ(土ブロック)、木舞荒壁、練り土造です。
版築は、壁の厚みに平行に配置した型枠の中に土を入れ突き固めるもので、土の層が表面に現れる一体型の壁面がつくられます。日干しレンガは、ブロック状の木枠に土を入れ太陽光で乾燥させたもので、土のモルタルで積み上げていきます。木舞荒壁は、木構造の壁下地を木の枝などで編み、粘土質の土を塗り付けていくものです。練り土造は、型枠を使わず、湿った土を直接壁の上に積み上げて壁面をつくっていきます。これらの4つの工法は基本的に世界各地で用いられています。
今回写真をご紹介する版築造は、フランス東部のドーフィネ地方のものです。中部の都市リヨンにも近い農村に、土壌と同じ薄褐色の優しい色合いの土の農家や納屋などが、牧草や畑の広がる広々とした豊かな風景の中に点在しています。西にローヌ川、東部にアルプスの山々が連なるこの地域には、適度な礫や砂利、砂、粘土が混じった、比較的版築に適した土壌が広がっています。
これらの建物の規模は大きく、3階建ての住宅や、高さは7~10m、長さが数十mもある農家の納屋などもあります。壁厚は40~80cm程度です。また、雨などの水に弱い土の建物に必要不可欠な、屋根の軒の出や、十分な高さの基礎(丸石や切り石積み)、さらに壁際には排水溝がとられています。表面の土壁が荒れていたり、ひび割れなどもありますが、このような水に対する配慮により数百年もの耐久性が保たれているのだと思います。
版築の型枠の高さは約80cmで、この型枠ごとに石灰モルタルの層を入れていますが、これも雨水から守る対策の一つです。特にコーナー部にはこのモルタル層を多く入れて補強しています。日本では、京都の三十三間堂や、奈良の法隆寺近郊の土塀に、同じように漆喰で横筋の層が入っていますが、これも雨対策のために入れられているそうです。
この地方の版築の建物の多くが、19世紀初頭から第二次大戦直後までのもので、現在、これらの建物の保存や修復、また技術の継承などが問題となっており、そのための活動が行われています。
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高さが10m以上ある版築の農家の納屋写真5
基礎部分に丸石が使われている。下部の湿気が壁に上がり、少し湿った状態。
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版築造の協会。土の入ったモルタルで薄く上塗りされている。
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18世紀に建てられた版築造の住居。写真10
建物のコーナー部分。石灰モルタルの層が多く入っている。
写真11
セメントの上塗が剥がれた民家。